土砂降り:柴犬イチローと見る風景8
夕方、犬舎でワンワン要求吠えしている。「さんぽっ♪ さんぽっ♪ さんぽっ♪ …」と言っているようにも聞こえている。
いつも同じことを繰り返しているのだが、今日ばかりは勘弁してほしい。だって外は土砂降りだ。こんな日にも散歩に行かにゃならんのか!? と腹立たしく思うのだが、やはり行かねばならぬ事情があるのだ。
かつて同じように天候の悪い日に散歩を休んだことがあった。
イチローを玄関のクレートの中に入れ、夕食もやり、数時間テレビを見たり、お茶などをすすったりして家族団らんの時間を過ごしたあと、僕らはいつものように0時頃に寝床についたのである。散歩がなかったこと以外は…。
家中の照明を落とすやいなや、これまでずっとおとなしく寝ていたイチローがクレートの中でゴソゴソとしだした。何やら異変を感じたようで、いきなり要求吠えを始めたのだ。散歩をねだるときと同じ泣き声である。
そのうち泣きやむだろうと高をくくっていたが、しばらくしてもぜんぜん変わらない。このまま永遠に泣き続けるような気がしてきた。
「ウソだワン!? 今日はまだ散歩に行っていないのにお前たちは寝るのかワン!?」とイチローは泣き叫んでいた。
とうとう僕は根負けして、しかたなく真夜中に散歩をする羽目になったである。
この夜の午前1時頃、いつものコースは雨が上がっていて幸いだった。
帰宅後、満足しきったイチローはクレートの中でスヤスヤ夢心地。僕は目がさえてしまってしばらくの間寝付けなかった。